「未経験を採用したけれど、育成にいくらかかっているのか把握できていない」

SES企業の経営者・現場責任者からよく聞く言葉です。
研修費として計上しているのは教材費くらいで、実際に一番かかっているコストが数字に出ていないケースがほとんどです。

この記事では、未経験エンジニア1人を戦力にするまでにかかる費用を、内製と外注の両方で実際に計算します。


結論:内製の育成コストは「教える側の人件費」で決まる

先に結論を書きます。

  • 未経験1人を稼働させるまでの総額は、内製でおよそ250万〜400万円
  • そのうち教材費・ツール代は数万円で、9割以上が人件費
  • 一番大きいのは本人の給与ではなく、教える先輩エンジニアの機会損失

単価70万円のエンジニアが月20時間を教育に使えば、それだけで月8.75万円分の売上が消えています
これが数字に出ないため、「育成コストはほぼゼロ」と錯覚してしまいます。


育成コストの内訳を分解する

未経験の育成にかかる費用は、大きく5つに分かれます。

費目内容数字に出るか
① 本人の人件費稼働前の給与・社会保険料出る
② 教える側の工数先輩エンジニアの指導時間出にくい
③ 教材・環境費書籍、学習サービス、PC出る
④ 待機・低単価期間の損失案件に入れない、または単価が低い期間出にくい
⑤ 離職による損失採用費+それまでの投資の消滅出にくい

数字に出にくい②④⑤が、実は総額の大半を占めます。
ここを見ないまま「研修費は年間10万円」と考えていると、判断を間違えます。


内製の場合を実際に計算してみる

条件をそろえて計算します。よくあるSES企業のケースです。

  • 未経験者1名を採用(月給25万円、社会保険料込みで会社負担30万円)
  • 自社で6カ月かけて育成し、7カ月目に単価45万円の案件へ
  • 指導役は単価70万円のエンジニア(時間単価4,375円/月160時間換算)
  • 指導時間は月20時間(レビュー、質問対応、面談を含む)

① 本人の人件費

30万円 × 6カ月 = 180万円

② 教える側の工数(機会損失)

4,375円 × 20時間 = 87,500円/月
87,500円 × 6カ月 = 52.5万円

ここが最大の盲点です。先輩の時間は、本来なら売上になっていた時間です。
「空いた時間に見ている」つもりでも、実際には残業や他タスクの遅延に形を変えています。

③ 教材・環境費

書籍・学習サービス・開発環境で 5万〜10万円(ここでは8万円とします)

④ 採用費

未経験採用は媒体・紹介で幅がありますが、30万〜80万円(ここでは40万円)

合計

費目金額
① 本人の人件費(6カ月)180万円
② 教える側の工数52.5万円
③ 教材・環境費8万円
④ 採用費40万円
合計280.5万円

これが、1人を稼働させるまでの実際の投資額です。
単価45万円で入れたとして、粗利が月15万円なら回収に約19カ月かかります。


見落とされる「離職」のコスト

上の計算には、離職の損失が入っていません。

未経験入社の1年以内離職は、業界的に珍しくありません。
仮に3人採用して1人が半年で辞めた場合、どうなるか。

項目金額
3人分の育成投資841.5万円
うち1人分が消滅▲280.5万円
残り2人で回収する必要がある額841.5万円
1人あたりの実質コスト420.75万円

1人辞めるだけで、生き残った人の実質コストが1.5倍になります。
育成の話が最終的に早期離職の話になるのは、このためです。


外注(育成代行)の場合を計算する

次に、育成部分だけを外部に任せた場合です。

本人の人件費と採用費は当然かかります。変わるのは②教える側の工数④育成期間の長さです。

費目内製外注(月55,000円の場合)
本人の人件費(6カ月)180万円180万円
教える側の工数52.5万円0円(月2〜3時間の状況確認のみ)
外注費0円55,000円 × 6カ月 = 33万円
教材・環境費8万円0円(含まれる場合)
採用費40万円40万円
合計280.5万円253万円

金額だけ見ると 約27万円の差。大きな差ではありません。
本当の差は、先輩エンジニアの月20時間が現場に戻ることです。

単価70万円の人が月20時間を取り戻せば、その分だけ請求できる時間が増えます。
6カ月で52.5万円分。外注費33万円を差し引いても、約20万円のプラスです。


損益分岐点はどこか

「うちは教える工数がそこまでかかっていない」という場合もあります。
指導時間ごとの分岐点を出しました(指導役の時間単価4,375円で計算)。

月の指導時間機会損失(月)外注費55,000円との比較
5時間21,875円内製が安い
10時間43,750円ほぼ互角
13時間56,875円ここが分岐点
20時間87,500円外注が安い
30時間131,250円外注が大幅に安い

月13時間=週3時間強が目安です。
週に3時間以上、先輩が未経験者の面倒を見ているなら、外注したほうが計算上は得になります。

コードレビュー、質問対応、環境構築の付き添い、進捗の面談。
これらを足すと、週3時間を超えている会社がほとんどです。


金額に出ないコストが3つある

1. 教える側のストレス

「自分の仕事が進まない」という状態が続くと、指導役のほうが先に疲弊します。
中堅エンジニアが辞める理由の上位に、教育負担があります。
未経験1人を育てるために中堅1人を失えば、完全に赤字です。

2. 教える内容が人によってバラバラになる

内製の指導は、担当する先輩のスキルと相性に左右されます。
同じ会社の未経験者でも、仕上がりに大きな差が出ます。品質が安定しないことは、営業のときに効いてきます。

3. 育成の状況が見えない

「今どのくらいできるようになったのか」を聞かれて、感覚でしか答えられない。
これが営業の提案精度を下げます。客先に出せるかどうかの判断が遅れ、待機が延びます。


育成コストを下げる4つの方法

方法効果注意点
期間を短くする本人の人件費が直接減る詰め込むと定着しない
教える側を固定する手戻りが減るその人の負担が集中する
学習内容を案件に合わせる無駄な学習が消える案件の見込みが必要
育成を外部に出す先輩の工数が丸ごと戻る丸投げすると社内に知見が残らない

一番効くのは期間の短縮です。
本人の人件費が月30万円なので、6カ月を4カ月にできれば、それだけで60万円下がります。

期間が延びる原因の多くは、能力ではなく詰まったときに聞ける相手がいないことです。
1時間で解決する疑問に3日かかる、が積み重なって半年が1年になります。


よくある質問

Q. 助成金は使えますか?
A. 人材開発支援助成金など、要件を満たせば対象になる場合があります。ただし申請の手間と、支給までのタイムラグがあります。助成金ありきで計画を立てると、要件に合わせて中身を歪めることになるので注意してください。

Q. スクールに通わせるのとどう違いますか?
A. スクールは決まったカリキュラムを一律に進めます。育成代行は、その会社の案件に合わせて内容を調整します。詳しくは研修を外注する場合の費用相場と選び方にまとめました。

Q. 育成期間中も案件に入れながら育てられませんか?
A. 可能ですが、単価の低い案件に長く滞留するリスクがあります。テスト工程だけを1年続けて、その後に開発へ移れないケースは非常に多いです。SESで未経験者が案件に入れない理由で詳しく書いています。

Q. 何人からお願いできますか?
A. AhaGate for Businessは1名から対応しています。まず1人で試して、社内の工数がどれだけ戻るかを見るのが確実です。


まとめ

  • 未経験1人の育成コストは、内製でおよそ280万円。9割以上が人件費
  • 一番大きいのは教える側の機会損失。ここが数字に出ないため見落とされる
  • 月13時間以上を指導に使っているなら、外注のほうが計算上は安くなる
  • 1人辞めるだけで、残った人の実質コストは1.5倍になる
  • コストを下げる一番の方法は、育成期間そのものを短くすること

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